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2007.11.22

いしかわじゅん■ いしかわ世界紀行

20071122ishikawasekai

舟の縁からふと海を見たぼくは、自分の目を疑った。

舟は、海ではなく宙を飛んでいた。

舟の影が、2メートルほど下の地面にくっきりと映っていたのだ。つまり、この舟は2メートル浮き上がって宙を飛んでいるのだ。

いや、そうではない。もちろん海を走っているのだが、水があまりに透明なので、宙を飛んでいるように見えるのだ。〔…〕

ぼくは足許の砂を掬い上げてみた。異様に軽かった。

目を近づけてよく見ると、それは砂ではなかった。

ごく小さな、巻き貝の殻だったのだ。

05ミリほどの、中身のない貝殻が、砂のようにびっしりとその浜の一画を埋め尽くしていた。おそらく、何億個とか何兆個とかいう単位ではないだろう。

だって、そのあたり肉眼で見える10メートル20メートルくらいの砂浜は、みんな貝殻でできているのだ。試しにざくざく掘ってみても、下から出てくるのは貝殻なのだ。

掘っても掘っても貝殻なのだ。〔…〕

あれきり、ぼくは壱岐にいっていない。

幻の貝の浜も、だからあの時見たきりだ。

――「幻の浜」

*

*

■ いしかわ世界紀行|いしかわじゅん|毎日新聞社|2005 10月|ISBN9784620317373

★★

《キャッチ・コピー》

みんななんて楽しそうなんだ。新宿・四国・沖縄・吉祥寺・メキシコ…“いしかわ世界”への旅がはじまる。『毎日新聞』日曜版に連載された「オトナの遊び」をもとに編んだエッセイ集。

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