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2007.12.03

大本泉■ 名作の食卓――文学に見る食文化

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しかしやはり、見逃せないのは、最後の部分だろう。

雇人の密会を発見し、説教したすぐあとから、買ってきた「鱧の皮の小包を一寸撫でて見て」という(身体)にも、セクシュアルな刺激以上に、気持ちが表出している。

夫にいわば裏切られ続けながらも、それでも夫を連れ戻そうとする、お文の諦めと夫との絆への期待との入り混じった複雑な思いがあらわれているのである。〔…〕

本文の「鱧の皮」とは、夏の大阪らしい食べ物である。最近は少なくなったようだが、皮を焼いたものを蒲鉾屋で売っている。それを細かく刻み、きゅうりと一緒に酢の物として食するのが〈ハモきゆう〉である。

福造の好物は、その二杯酢にしたものだった。

凶暴な性質で細工が面倒な鱧。そして鱧の二杯酢は、酸っぱい味もする。

しかし、確かな強い旨味があるのも鱧である。

『鱧の皮』は、大阪らしい商家を舞台に、憎んだり、相手から逃げようとしたりしながらも、結局はどこかつながっているお文・福造夫婦のありようが、「鱧の皮」という仕掛けをとおしていきいきと描かれている。

――「酸っぱい・夫婦という絆の味」-上司小剣『鱧の皮』-

*

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■ 名作の食卓――文学に見る食文化|大本泉|角川学芸出版/角川書店|2005 08月|ISBN9784046519832

★★★

《キャッチ・コピー》

樋口一葉の『にごりえ』から吉本ばななの『キッチン』まで。日本の近現代文学の名作30篇に描き込まれたさまざまな「食」を通して作品の本質に迫る。作家の嗜好や日本の豊かな食文化に視点を据えて文学をたのしみながら味わいつくす、名作鑑賞入門。

memo

 夏でもないのに、偶然にも、また上司小剣『鱧の皮』に出会った。

坪内祐三■ 大阪おもい

青空文庫で「鱧の皮」

上司小剣の「鱧の皮」を歩く(道頓堀)

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