内田樹■ 村上春樹にご用心
安原顕が村上春樹を憎むようになったきっかけは、安原の作家的才能に対する外部評価が、彼が望んでいるほどには高くなかったことと無関係ではないだろう。
作家の直筆原稿という生々しいオブジェを換金商品として古書店に売り飛ばしたというところに私は安原の村上春樹に対する憎悪の深さを感じる。〔…〕
原稿を「モノ」として売るということは、作品をただの「希少財」(珍しい切手やコインと同じような)とみなしたということである。死にかけた人間がいくぼくかの金を求めてそんなことをするはずがない。
これはおそらく作品の「文学性」を毀損することだけを目的としてなされた行為と見るべきだろう。
「こんなものは文学じゃない。これはただの商品だ」
安原顕はそう言いたかったのだと思う。
死を覚悟した批評家が最後にした仕事が一人の作家の文学性そのものの否定であったという点に私は壮絶さに近いものを感じる。
どうして村上春樹はある種の批評家たちからこれほど深い憎しみを向けられるのか?
――「村上春樹恐怖症」
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■ 村上春樹にご用心│内田樹|アルテスパブリッシング|2007年 09月|ISBN:9784903951003
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《キャッチ・コピー》
ベストセラー『下流志向』のウチダ教授が村上文学の秘密をついに解きあかす!
村上春樹はなぜ世界中で読まれているのか?
なぜ文芸批評家から憎まれるのか? うなぎとはなにか?
──だれにも書けなかった画期的な村上春樹論登場!
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