鷲田清一■ 思考のエシックス――反・方法主義論
仕事ができなくなると死期は近いと昔のひとは感じたが、いまは現役を退いてからの時間がともかく長い。20年、30年と続く。〔…〕
いまはほとんどのひとが勤務というかたちで就労しているので、定年になると仕事から離れる。そして長い年金生活に入る。人類史を見ても、こんな人生の段階というのはこれまでなかった。
この長い期間をどのように過ごすのか、そのモデルが「老いの文化」として定着することがないままに、「介護」の現実だけはいよいよ厳しくなっている。
そして、である。そのようななかで「介護」の現実に引き入れられると、われわれはこんな問題すら乗り越えていなかったのかと愕然とすることが多い。
いや、こんな問題すら乗り越えていなかったというよりも、むしろこんな能力すら失ってしまっていたのかと惜然とする、と言ったほうがいいかもしれない。
――〈老い〉はまだ空白のままである
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■ 思考のエシックス――反・方法主義論│鷲田清一|ナカニシヤ出版|2007年 06月|ISBN:9784779500909
★★★
《キャッチ・コピー》
「方法」は脱ぎ捨てられるべきか?哲学における「方法」の意味を問う。
《memo》
末尾に以下の記述が……。
中井久夫は書いていた。――「成熟とは、〈自分がおおぜいのなかの一人(ワン・オブ・ゼム)であり、同時にかけがえのない唯一の自己(ユニーク・アイ)である〉という矛盾の上に安心して乗っかっておれることである」(『看護のための精神医学』)、と。
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