井山弘幸■ 笑いの方程式――あのネタはなぜ受けるのか
第3のテクニックは「論理的逸脱」として一括される、古くからある笑いの技術である。落語では粗忽者の言動、漫才ではボケ方の一つとして、あるあるネタのなかでは「世の中にある矛盾」として、すでに確固たる地位を築いている。〔…〕
キングオブコメディ(人力舎)のコント「登校拒否」にも用いられている。登校を拒否している学生(高橋)のところに、ちょっと無神経そうな友人(今野)がやってきたときのこと――
高橋「いいよ、今さら僕が学校に行ったってさあ、みんな変な目でじろじろ見るに決まってんだよ」
今野「そんなことないよ。みんな高橋君のこと見て見ぬふりするって!」
高橋「うん、だから行かない、だから行かないんだ」
今野「じゃあ、まったく見ない!」
高橋「なんで仕打ちがひどくなるんだ、帰れよ。(中略)教室のどこにも僕の居場所なんてないんだよ」
今野「大丈夫だよ。高橋君、いてもいなくても一緒だから、来たって一緒だよ」
高橋「今野君、本当は何しに来たの? とどめ?」
(NHK『爆笑オンエアバトル』 2002年2月2日放映)
今野は引きこもった友人を誘い出すために来たにもかかわらず、その本来の目的とは矛盾する言動が続く。ブラックに分類することもあるだろうが、彼の来訪の前提がその後の台詞と矛盾するという観点から、論理的逸脱による笑いに含まれる。
――第5章 笑いのボケビュラリー 3・逸脱
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■ 笑いの方程式――あのネタはなぜ受けるのか│井山弘幸|化学同人|2007年 09月|ISBN:9784759813104
★★★
《キャッチ・コピー》
ほとんどのネタは惜しまれることなく、この世から消えてゆく。そんな儚い運命にあるネタに仕掛けられた笑いのテクニックを形態分類し、笑いを引き起こす構造を分析。見て楽しむのとはひと味違う、読んで楽しむお笑い論。笑わせるテクニックの博物学的形態分類。
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