池澤夏樹■ 叡智の断片
実際の話、老いるというのはどういうことか。イギリスの作家アンソニー・パウエルは「老いるとは、犯してもいない罪で処罰されるようなもの」と言う。〔…〕
フランソワーズ・サガンの小説の中だったと思うが、18歳の少女が「わたしがいつかお婆さんになるなんて言語道断だわ」と言っていた。そのとおり、老いるのは不当なことなのだ。最初は怒り、やがてしかたなく慣れる。
チャーチルがズボンの前ボタンが開いていますと注意された時に、「気にしなくていい。死んだ鳥は巣から出ないから」と言ったのはなかなか悲しい。
開き直るのも一つのやりかた。ベンジャミン・フランクリンのように「私は今、老衰の絶頂にある」と宣言するのもいいかもしれない。
100歳まで生きたラグタイム・ジャズのピアニスト、ユービー・ブレイクはその100歳の誕生日に「こんなに長生きするとわかっていたら、もっと身体に気をつけたのに」と言ったけれど、これは真似してみたい台詞だ。
みんなせいぜい身体に気をつけて長生きしよう。「老いるのは簡単、長生きすればいいだけだから」とグルーチョ・マルクスが言っている。
――「老人たちよ」
*
*
■ 叡智の断片|池澤夏樹|集英社インターナショナル|2007年 12月|ISBN:9784797671711
★★★★
《キャッチ・コピー》
チャーチルからウディ・アレンまで名言の引用術。
政治家、金、映画、結婚、愛国心、成功,テレビ等々について、古今東西の偉人・有名人はいかに語ったか。名言を引用しつつ、現代に通じるウィットを探る。
《memo》
当ブログは将来的には“引用句辞典”にするつもりなのだが。
| 固定リンク
コメント