常盤新平■「ニューヨーカー」の時代
リリアン・ロスは40年以上にわたってショーンの「恋人」だった。〔…〕
ショーンは真面目一方で、「ニューヨーカー」に生涯を捧げたように見える。事実そうだったのだが、リリアン・ロスにはしばしば言っていた。
「私はそこにいるのだが、そこにはいない」
そことは“there”であり、家庭や仕事を意味しているように思われる。家庭や仕事があって、自分はそこにいるけれども、そこにはいないような気がする。リリアン・ロスという「レポーター」としては抜群の才能を持った女性がいたからだ。〔…〕
ロスにとっての“there”は、リリアン・ロスにとっては”here”だった。リリアンはロスと結婚できなかった。そのことに甘んじたのは、レポーティングという仕事があったからだ。彼女はレポーターであることに誇りを持っていた。
ショーンの妻と同じく、リリアンも耐えた。ショーンもまた二人の女にはさまれて耐えた。
――「ショーンの死」
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■「ニューヨーカー」の時代|常盤新平|白水社|1999年 09月|ISBN:9784560046760
★★★
《キャッチ・コピー》
75年前マンハッタンで生まれ、マンハッタンの息吹をかぎとりながら、時代の伝説を次々に作りあげるクオリティマガジンのスタッフの執念と心意気をあざやかに描く、著者得意の力作。
《memo》
ウィリアム・ショーンは、1952年から1987年まで「ニューヨーカー」の編集長。1992年死去。享年85。「ニューヨーカー」を退いてから5年たっていた。リリアン・ロスの『ここにいてもここにはいない』という回想録は「ウィリアム・ショーン、そして『ニューヨーカー』と過した私の人生」という副題がついている。邦訳は↓
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