井上章一■ 狂気と王権
1994(平成6)年のことである。私はこの本でまとめたことを、『宝島』という雑誌で連載しはじめた。これが、当時の京都府警に、見とがめられたのである。
この年には、天皇と皇后が、私のつとめ先である国際日本文化研究センターをおとずれている。そして、警衛警備をまかされた府警は、同センターの下しらべもおこなった。〔…〕
当時の所長であった梅原猛氏のところへ、それで問いあわせがあったという。井上は、「赤じゃあないのか」、と。〔…〕
そして、梅原所長は、府警の担当者にこうこたえていたという。
「井上君が赤? いや、そんなことはないでしょう。彼はむしろピンクじゃあないかな」〔…〕
井上君に、「赤」などといえるような思想はないよ。あいつは、ただの助平だ。梅原所長は、そんな想いをこめて、私のことを「ピンク」だとつげていた。〔…〕
警察は、ピンクという返事で納得していたよ。でも、誤解はされたかもしれないね。女好きという意味でそう言ったんだけど、淡い「赤」というふうにうけとめられたかな。梅原所長は、そうも言いながら、にこにこしていた。
――学術文庫版へのあとがき
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■ 狂気と王権│井上章一|講談社|2008年 02月│文庫|ISBN:9784061598607
★★★
《キャッチ・コピー》
元女官長の不敬事件、虎ノ門事件、田中正造直訴事件、あるいは明治憲法制定史、昭和天皇「独白録」の弁明など、近代天皇制をめぐる事件に「精神鑑定のポリティクス」という補助線を引くと、いったい何が見えてくるか。
「反・皇室分子=狂人」というレッテル貼り。そして、「狂気の捏造」が君主に向けられる恐れはなかったのか? 独自の視点で読み解くスリリングな近代日本史。
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