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2008.03.29

木村紺■ 神戸在住(10)

Kimurakobe10

――今はもう、顔も思い出せないけれど、登校の電車で、いつも見かける男の子がいた。

細い首すじに肩、柔らかそうな髪の毛。

だけど、それより気になっていたのは、彼が読んでいた本。ジョナサン・キャロル作「炎の眠り」。華やかでいて、ぞっと冷たくて、忘れがたい物語だった。ストーリーの正体が見えないまま、物語はとても不思議な結末を迎える。

特に不可解だったのが最後の一文。私には、そのラストがどうしても理解できなくて、だから私は彼と話がしたかった。

「これどういう意味だと思いますか?」と訊きたかった。

「その人はあまり本とか読まないらしくて、毎日ページがちょっとずつちょっとずつ進むんですね」

「ドキドキです」

「ほほう。おもろなってきたで」

「で?」

「ええっと、それがそのお。あと少しってとこまできていた本が、ウォークマンに変わってまして。話しかけそびれました。それっきり」

「あーあ。辰木ちんぽいオチやな」〔…〕

黙っていたけど、この話には少し続きがあって、それからどれくらい後だったか、彼が、女の子と一緒にいるのを見た。二人は、とても親密に見えた。ショックじゃなかった。「ふうん」って、平坦に思った。

寂しく思わないことが、残念だった。あの気持ちは、恋になりそこねたのだと、やっと私は気付いた。

――第87話 私たちとラブストーリーの夜。

*

*

■ 神戸在住(10)|木村紺|講談社|2008 01月|コミック|ISBN9784063211825

★★★★

《キャッチ・コピー》

歩いてゆく。ゆっくり。これまでも。これからも。
新たに5編の描き下ろしを収録し、『神戸在住』ここに完結。

一生、読み続けられる本。

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