木村紺■ 神戸在住(7)
あの頃の思い出はどれも不自然な程、白い。
もしかしてそれは正視を拒む私の心が、記憶を漂白したせいかもしれない。
彼の絵を初めて目のしたのは、あるタウン情報誌の特集ページだった。
「また見てんの? なに? たっきー、その絵気に入ってんね」
「うん」〔…〕
初めてその絵を見た瞬間、私の身体を電気のような痺れがかけぬけた。
それは、パステルカラーで描かれた一匹の猫。〔…〕
しばらく行方知れずだった飼い猫が、満月のその日に帰ってきた。
今はもういない「たんぽぽ」の面影を、このシンプルな絵の中に私は見出した。
「月を見ている猫」と題されたその絵に触発されて、わたしはかつてなく真剣に、一枚の絵を描き上げた。〔…〕
「卒業したら引越しですか。志望校決めてる?」
「はい、あちらの学校で文学部に美術科があるので、そこに」
――「あの猫の絵を描いた人がいる街で、私も絵を描いてみたい」と。
――挿話・日和さんとの出会い
*
*
■ 神戸在住(7)|木村紺|講談社|2005年 02月|コミック|ISBN:9784063211672
★★★★
《キャッチ・コピー》
――読めばきっと神戸に住みたくなるはず!?
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