木村紺■ 神戸在住(8)
広すぎる空。
めまいがした。
その空から目が離せなくて、
ベンチに座って天を仰いでいたら、見知らぬお婆ちゃんに、声をかけられた。〔…〕
「そこなあ、わたいの友だちが住んでおってね。尋常小学校から一緒におった子でねえ。そら仲の良(え)え友だちやってんよ」
指さした先を目で追うと、そこは基礎ばかり残る、空き地だった。
ふり返ると、穏やかな笑顔。
かつてここは災害地だった。
心がきしむ様な映像は、忘れられない。だけどいくら想像しても、所詮はテレビの中の出来事で、遠い遠い手の届かない世界の事だと思っていた。
笑顔で幼なじみの事を話すお婆さん。過去形で語られるひとつひとつの裏側に、表情とはうらはらな哀切さをくみとった。屈託のない笑顔だったけれど、私は、正面から向き合うことができなかった。
――第77話 神戸に来た日。
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■ 神戸在住(8)|木村紺|講談社|2006年 02月|コミック|ISBN:9784063211757
★★★★
《キャッチ・コピー》
――読めばきっと神戸に住みたくなるはず!?
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