石原慎太郎■ オンリー・イエスタディ
角さんという、あの善し悪しを超えて奇妙な魅力に富んだ、人たらしともいえたある種の天才がやはり人間の関わりに関して天才だったなと改めて悟らされた事実を最近知ることが出来た。
世界的ベストセラーだった『ワイルド・スワン』の著者ユン・チアンが彼女の夫と一緒にものした、同胞を七千万人殺してはばからなかった毛沢東の興味深い伝記『マオ』の最後の、多分あまり読者も日を通さぬ後記の中に、
キッシンジャーやニクソンまでがその印象の強さに打たれて絶賛していた当時の首相の周恩来が、最近公開された機密の資料を元にして書かれたその評伝では、毛沢東に対していかに卑屈に奉仕し続けた人物でしかなかったかという事実が明かされたが、
そのはるか以前に日中国交正常化に出かけた当時の日本の首相たる角さんが、彼を迎えに出た周とその後面談した毛とを比べて、誰かがニクソンと同じように周を絶賛したら、「なあにあんな奴は、毛の足下に飼われているただのチンコロだ」
といい切ったとあった。
これはあの角さんの人間関係における天才を証す、私にはなぜか無類に痛快な、角さんならではの挿話に思えてならない。
――第17章 角さん残像
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■ オンリー・イエスタディ│石原慎太郎|幻冬舎|2008年 01月|ISBN/:9784344014466
★★
《キャッチ・コピー》
癖のある人物こそ面白い。「人間の魅力」とは何か?石原流人生論、全18章。
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