柳澤健■ 1976年のアントニオ猪木
「プロレスは最強の格闘技である」
要するにプロレスはボクシングよりも空手よりも柔道よりも強い、と猪木は言った。
よく考えてみれば無茶苦茶な話だ。
第1に、プロレスは格闘技ではない。レスリングは格闘技だが、プロレスはショーであり、一種の演劇なのだ。
第2に、格闘技と格闘技が戦うことなどできない。バスケットボールとバレーボールが戦えないのと同じことだ。レスラーとボクサーが戦うとすれば、“何でもあり”で戦うしかない。
たとえばレスラーとボクサーが“何でもあり”で戦い、レスラーが勝ったとする。その場合レスリングがボクシングより強いことになるのか? ならない。単に“何でもあり”に強い方が勝ったというだけのことだ。
だが、アントニオ猪木はあまりにも魅力的なレスラーだった。〔…〕
かくして人々は偉大なる魔術師アントニオ猪木の説得力に負け、異常な結論へと導かれる。
プロレスは格闘技であり、しかも最強の格闘技であり、プロレスラーは「何でもあり」でも最強なのだ。
――終章 そして総合格闘技へ
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■ 1976年のアントニオ猪木|柳澤健|文藝春秋|2007年 03月|ISBN:9784163689609
★★★★
《キャッチ・コピー》
猪木はリングに寝て、アリは立つ。1976年の異種格闘技戦を当時のマスメディアは「世紀の大凡戦」とこきおろした。が、21世紀に生きる私たちは、現在の総合格闘技の試合の流れのなかでごく普通にそうした状態を見ることができる。世界各地に試合の当事者を訪ね歩くことで見えた猪木の開けた「巨大なパンドラの箱」。
《memo》
「正真正銘の猪木評伝の最高傑作だろう。今すぐ本屋へ走れ!そして、タイムマシーンに乗って、あの俺たちの甘美なる30年前へ遡れ!」(水道橋博士「本業」)
というわけでネットショップで購入しました。あまたあるプロレス本の中の傑作。
竹内 宏介 /ターザン山本 ■ プロレス雑誌大戦争!―『週刊ゴング』vs『週刊プロレス』激闘の30年史
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