中村よお■ 肴(あて)のある旅――神戸居酒屋巡回記
吉田健一を最初に読んだのは中公文庫の『私の食物誌』と『舌鼓ところどころ』だ。ほかにも同じ文庫で出ていた食に関する本を順番に読み進むうちに行き当たったこの2冊で、人によっては悪文ともいうこの人のうねうねと捻じ曲がった文章にやられた。
神戸へやって来てバー・アカデミーでドライ・シェリーを飲んだり、武蔵で「日本酒よりビイルの方が合う」とんかつ、えびかつを食べたりした時の記述もいいのだが、「別に酒の肴と考えられているわけではなくてもうまいものならは酒の肴になる」(『酒肴酒』)というような潔い思想に唸らされた。
銀座で飲んでいて、偶然隣り合わせた神戸の大きな酒造会社の技師と意気投合して旨い酒肴を飲み食べ歩き、ついには「つばめ」に揺られて神戸にまでついて行ってしまい、そこでもまた飲みつづけるという「酒宴」。〔…〕
田中小実昌のこれまた一見悪文のような、うねうねとした文章にも、ゾッキ本で買い揃えた氏の著作を読み進むうちにとりつかれた。時には女の子を連れ、行き当たりばったりにバスに乗り、映画を観ては酒を飲む、その日常に強くあこがれた。
神戸でも旧朝日会館地下にあったバー「神戸ハイボール」で氷を使わないあの旨いハイボールを飲んだり、福原で映画のあと、一階の入り口は福原、二階は新開地という焼鳥屋「八栄亭」で飲んだりしている。
――酒を読む
*
*
■ 肴(あて)のある旅――神戸居酒屋巡回記│中村よお|創元社(大阪)|2006年 08月|ISBN:9784422250458
★★
《キャッチ・コピー》
「毎日の、日常として通う居酒屋こそ文化」と言い切る著者の、愛してやまない居酒屋の数々。今夜も、神戸で飲んでいる至福の酒場が続々登場。
《memo》
朝日会館地下のバー・神戸ハイボールには1960年代に行ったことがある。落花生の皮やタバコの吸殻はそのまま木の床に捨てる方式の薄暗いバーだった記憶がある。
| 固定リンク
コメント