山田宏一■ 日本侠客伝――マキノ雅弘の世界
終戦直後、まだ雅弘と改名する前のマキノ正博監督が、ある映画雑誌で、「民主主義の時代が来ました。監督はこれから、どんな映画を撮りますか」という問いに、こう答えていたとのことである。
主義は関係ない。ワシは昔から酢と主義は大嫌いや。どんな映画を撮りますか、とのご質問やが、活動写真を撮りたい。映画は、その時の権力と手をにぎらなあかんこともある。けど活動写真は、地面(じべた)の世界や。銭もろて、見てもらうのが活動写真。ワシは一生活動屋や。
映画作家ではない、シネアストではない、「活動屋」なのだ。
むずかしい顔をして「作家」としての自らの主義主張や、大義名分としての思想やテーマを表現することよりも、といっても、もちろん、思想もテーマもないというわけではなく、ただ表立って主張したりしないというだけのことで、何よりもまず気軽に誰もがたのしめる「地面(じべた)の世界」の大衆娯楽映画をつくることに徹したのである。
「その時の権力と手をにぎらなあかん」映画の新しさとは無縁な、昔ながらの、相も変らぬ人情ばなし、男と女の物語を、情緒たっぷりに語りつづけたのである。
――シネアストの肖像-マキノ雅弘
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■ 日本侠客伝――マキノ雅弘の世界|山田宏一|ワイズ出版|2007年 12月|ISBN:9784898302200
★★
《キャッチ・コピー》
傑作・名作・凡作・駄作をとりまぜ、260本余を撮りまくったリメーク/創造的反復の名匠。マキノ雅弘監督へのオマージュ。
《memo》
『マキノ雅弘自伝・映画渡世』(1977)に係わった著者のマキノ監督賛歌。
◆ 任侠と加齢と
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