野坂昭如■ 妄想老人日記
10月15日
西宮では小田実のとこへ来たのか、神戸では田中康夫と一緒かと、見知らぬ人に訊かれる。
雨、寒い。震災前なら、菅原通り番町御蔵通りに知人宅いくらもあった、今皆無。昼前から賑わう飲み屋にも入り難い。といってハーバーランドのホテルで飲むのも情けない。
震災直後知り合った個人タクシー運転手が、当地で便宜を計ってくれる、連絡すると休みの日。自家用で迎えに来たから、1時間2千円でチャーター、被災の跡の残る辺り走ったが、何だか実感がない。
店に入るとみなきわめて愛想よく、市場食いもの屋書店薬屋洗濯屋働いているのは女ばかり。
「福原どうです、不景気で安い、八千円やて」運転手が誘う。
――1998年10月―相手のボケみてわがボケに気づく
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■ 妄想老人日記|野坂昭如|新潮社|2000年12月|ISBN:9784103166092
★★★
《キャッチ・コピー》
妄想力があれば高齢化社会を楽しく生きることができる。「妄想」は老人期を生き抜くための大切な「糧」なのだ。美女、バイアグラ、酒…。妄想と現実の狭間で楽しく生きる老人の日々。
《memo》
酒と嫌酒薬と昭和20年代へ行ったり来たりの“書けない”日々……、数え年70。
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