川本三郎■ 東京暮らし
読書ノートを作っている。もう30年以上になるから20冊近くなる。といっても読んだ茶の内容を詳細に書き込んだものではない。印象に残った文章をいくつか書き留めているだけ。一種の引用である。〔…〕
もの書きにはよく引用箇所のコピーを取り、それを原稿用紙に張りつけてすます人がいるが、なんともったいないことをするのだろう。
引用する文章を自分の手で原稿用紙に書き移してゆく。確かに煩雑かもしれないが、ある瞬間、その作家や評論家の言霊のようなものが書き写すことによって、こちらに感じられる時がある。引用していてもっとも楽しい瞬間である。〔…〕
よく仏像は作るのではなく、すでに木のなかにあるものを彫り出すのだ、という。引用という行為はそれに似ている。
自分がいおうとしていること、いいたいと思っていて言葉が見つからないこと、それをすでに作家や評論家、あるいは詩人や俳人が、みごとな言葉でいいあらわしている。こちらの仕事はそれを探してきて、文章のなかに入れるだけ。
――引用の楽しさ
*
*
■ 東京暮らし|川本三郎|潮出版社|2008年 02月|ISBN:9784267017926
★★★
《キャッチ・コピー》
何処かにきっとあるにちがいない昔の姿や「昭和の東京」を求めて旅にでる…古きよき時代をもとめて路地や町を歩く。
《memo》
「『引用が面白い。面白い引用がたくさんあった』といわれるのがとてもうれしいんですよ」(野崎歓)
| 固定リンク
コメント