梶井照陰■ 限界集落
「生まれも育ちもずっと佐渡だけどのぉ。こんなこと初めてだっちゃ」
路肩に敷いたござに座り、木の棒で小豆の莢(さや)を叩いていたおばあさんがいった。
「以前は松枯れっていって騒いだもんだが、今度はナラの木ばかりが枯れていく」
そういうとおばあさんは木の棒を傍らに置き、莢から飛びでた赤褐色の豆を集めはじめた。
「なんかな。山が死んでいくようだっちゃ」
彼女は動かしていた手を一瞬止めると、わたしの眼を見ていった。緑と茶色の斑に染まった佐渡の山林が一瞬、脳裏に浮かぶ。
「これじゃあ、シイタケ農家もやっていけんちゃ」
彼女はそういうと、まるで宝物でもしまうかのように、そっと豆を袋に入れはじめた。〔…〕」
佐渡ケ島で初めてナラ枯れが観測されたのは、1998年である。〔…〕
ナラ枯れの原因はカシノナガキクイムシという4、5ミリ程度の小さな甲虫である。ナラ菌を宿した1000匹以上のキクイムシが一本の木に入り込み次々と枯らしていくのだ。〔…〕
ちなみに佐渡は新潟県の干シイタケ生産の約90%をしめており、ナラ枯れは頭の痛い問題なのだ。
――新潟県・佐渡ケ島(2)2007.09.30
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■ 限界集落│梶井照陰|フォイル|2008年 02月|ISBN:9784902943290
★★★
《キャッチ・コピー》
今後10年以内に423の集落が消滅する。誰にも気づかれることなく、消えてしまうかもしれない過疎の村に住む人々の姿を真摯に、優しい視線で切り取った、写真家・梶井照陰のフォト+ルポルタージュ。
《memo》
限界集落とは?
平成3年、大野晃高知大学教授が発表した概念。65歳以上の高齢者が集落人口の50%を越え、独居老人世帯が増加し、冠婚葬祭など集落の社会的共同生活の維持が困難な状況におかれている集落をそう呼んだ。
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