内田樹■ ひとりでは生きられないのも芸のうち
わが家は生まれたときから朝日新聞で、私自身もずっと朝日新聞一筋のヘビー・リーダーなのであるが、その私が「もう読みたくなくなった」というのだから、ここ数年の朝日の紙面の質的低下はかなり顕著なものと言わねばならぬであろう。
コンテンツが悪いと申し上げているのではない。
「語り口」が気に入らないのである。〔…〕
どのような問題についても「正解」があり、それを読者諸君は知らぬであろうが、「朝日」は知っているという話型に対する不快感が限度を超えたのである。〔…〕
「資料が整い合理的に推論すれば答えることのできる問い」と、
「材料が揃っていても軽々には答えの出せない問い」と、
「おそらく決して人間には答えの出せない問い」については
三色ボールペンでアンダーラインを引き分けるくらいの節度はメディアも持たなくてはならない。
ジャーナリストが決して口にしたがらない言葉は「わからない」と「すみません」である(もし、はじめて会って5分以内にこの2語を口にしたジャーナリストがいたら、その人は信頼してよろしいかと思う)。
しかし、おのれの知力の限界についてクールな自己評価ができないもの、おのれの誤謬を他人に指摘されるより先に発見することに知的リソースを供給できないものの言葉をいつまでも信じ続けられる者はいない。
――メディアのマナーについて
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■ ひとりでは生きられないのも芸のうち|内田樹|文藝春秋|2008年 01月|ISBN:9784163696904
★★★
《キャッチ・コピー》
社会のあらゆる場面で“孤立化”が進むいま、私たちはどう生きるべきか?「自己決定・自己責任」の呪縛を解く。
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