奥成達/ながたはるみ■ 昭和30年代スケッチブック――失われた風景を求めて
少年時代は雨降りさえ楽しかった。
「ぴつちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんらんらん」は少し幼すぎるにしても、ゴム長靴をはいてわざわざぬかるみや水たまりを選んで、うれしそうに泥水をはねあげながら歩いていたことを思い出す。〔…〕
「毎日、うっとうしい日が続きますね」などと挨拶し、雨が嫌われるようになってきたのは、昭和30年代以降になってからのことなのだそうである。日本中がどんどん都市化されてきてから、ということになる。
農耕民族の日本では、雨はもっと神聖なものだった。〔…〕
台風は少しは怖いのだが、こどもにとってはいつもと違う家の状況に内心実はわくわくするような気分になっているのだ。
停電もそうだ。あのローソク一本の部屋の様子。いちいち懐中電灯を持って部屋を移動するという面白さ。見慣れた家が新鮮な風景に変わっていく楽しさ。きっといまでもこどもたちは台風が来るのをひそかに期待しているのではないか、とぼくは思う。〔…〕
そして台風一過のあの真っ青な空は、本当に美しかった。
――台風が来ると、わくわくするような気分になった
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■ 昭和30年代スケッチブック――失われた風景を求めて|奥成達/ながたはるみ|いそっぷ社|2007年 10月|ISBN:9784900963399
《キャッチ・コピー》
原っぱの夕焼け、マッチと七輪、集めたメンコ、改札のキップ切り…。みんなどこに消えてしまったんだろう? 昭和30年代の風景を描いたさまざまな文学作品とともに、いまはもう失われてしまった原風景を懐かしむ。
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