岩城祐子■ 老人ホーム 淑女・紳士録
森沼様は、
「妻が若い男に心を傾けるのではないか」
「妻は僕の財産が目当てで僕と結婚したに違いないから、僕よりも預金通帳のほうが大事なのだ!!」
等と悩みに悩まれますもので、とうとう痴呆症が発症してしまいました。
神様は不公平な方でいらっしゃいます。
妻が痴呆症になりますと、さあ大変!! 殿方はもう妻が不憫で不憫で命をすり減らしてでも妻の介護に熱中するように男をお作りになったのに反して、
夫が痴呆症にでもなりますと、妻はオオイヤダ!! 痴呆症なんて男ではありません。男でなければ最早夫としての価値なし!! と云う論法で、妻は夫の預金通帳以外は見放すのが通り相場になるのでございます。
とうとう深刻なお顔で森沼夫人が私のところへ相談においでになりました。
「私の希望は夫が91才のお誕生日を迎えて、そのお祝いの直後に他界してくれることですの。もう疲れました……。どんなものでしょうかしらん」
――貞女の鑑ここにあり
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■ 老人ホーム淑女・紳士録|岩城祐子|あすなろ社|2003年 11月|ISBN:9784870340855
★★★
《キャッチ・コピー》
親をホームに預け放し最期にも駆け付けない紳士・淑女もいる。現場のオーナーが見た入居者の生きざま・死にざま。高齢者のケアに専念する著者が出会った様々な人間模様をユーモラスにつづる。
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