椎名誠■ 真昼の星――熱中大陸紀行
3年ぶりのチベットである。
ラサはずいぶん変わっていた。ポタラ宮殿と並んでこの街の大きな象徴的な位置にあるジョカン寺前の広場がすっかり舗装され立派な駐車場になっている。
記憶にあるそこは固い土の広場のあちこちに小さな屋台づくりの食い物屋、みやげ物屋、法具店、見せ物大道商人などがごちゃごちゃに密集し、そのあいだをいろんな人がいろいろなことをして歩き回っていた。〔…〕
線香の匂いや煙や土壌がいたるところでまざりあい、ひたすら騒然としている。けれどその脈絡のない混沌ぶりがここにはとても似合っているように思えた。
それがわずか3年で、奇妙によそよそしく整然となってしまったジョカン寺前のよく晴れた太陽の下で私もいささか呆然としていた。開放経済に入った中国の新しい顔がラサさえもこんなに激しく変えてしまったのかという驚愕と、それと同じくらいの落胆があった。
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■ 真昼の星――熱中大陸紀行|椎名誠|小学館|2005年 12月|ISBN:9784093940467
★★
《キャッチ・コピー》
今日もシーナは旅の空―辿り着いた最果ての地には、いつも真昼の星が輝いていた。
第1章 氷河の牙へ―パタゴニア追想紀行/第2章 奥アマゾンの水没ジャングルを行く/第3章 チベット偽者巡礼旅
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