黒川博行■ 蒼煌
「ややこしい運動せんでも、ええ絵を描いてたら会員にしてくれるんとちがうんか」
「それは絶対ない。芸術院会員は棚から落ちてくるぼた餅とちがう。わたしは会員に立候補しますと手を挙げて、生命を削るような運動をせんと、絶対になられへん」
「ほな、文化功労者や文化勲章も立候補せなあかんのか」
「そこはちょっとちがうと思う」
梨江はビールを飲みほした。「芸術院会員は権力で、文化勲章は権威なんや」
「どういうことや」
「ひとは権力に頭さげるけど、権威にはさげへんということ。……権力を欲しがれば欲しがるほど、権力に頭をさげなあかんねん」
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■ 蒼煌|黒川博行|文藝春秋|2007年 11月|文庫|ISBN:9784167447083
《キャッチ・コピー》
芸術院会員の座を狙う日本画家の室生は、選挙の投票権を持つ現会員らに対し、露骨な接待攻勢に出る。一方ライバルの稲山は、周囲の期待に応えるために不本意ながら選挙戦に身を投じる。
会員の座を射止めるのは果たしてどちらか。金と名誉にまみれ、派閥抗争の巣と化した“伏魔殿”、日本画壇の暗部を描く。
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