星野博美■ 愚か者、中国をゆく
なぜバックパッカーは、何日も並んで安い座席をとり、ホテルはあまたあるのにドーミトリーのある安宿を目指し、なるべく速度の遅い乗り物に乗り、ホテルやレストランではなく路上の屋台で食事をしたがるのだろう?
金がないからだ、という答えは、旅行者の間では通じても、現地の人には通用しない。旅行者がどんな理屈を並べようと、生きるために絶対不可欠とはいえない旅に金と時間を費やす、これはまざれもなく賛沢な消費活動である。それなのに彼らは必死の形相で倹約に走る。
それは、旅という非日常の中では、金がないことで冒険が買えるからだと私は思う。金をかけなければかけないほど、旅は刺激に満ちたものになる。何でも金、金、金の世知辛い世の中で、旅先では冒険が安価で、時にはタダで買えるのである。〔…〕
欲しいものが高価ならどこかで諦めるかもしれないが、安価になればなるほど刺激が増すため、歯止めも利かなくなる。それがバックパッカーのはまる旅の魔力だと、かつてそこにはまりかけた私は思っている。
――第1章 香 港
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■ 愚か者、中国をゆく|星野博美|光文社|2008年 05月|新書|ISBN:9784334034535
★★★★
《キャッチ・コピー》
中国に関する報道や批評などを目にした時に外部の人間がイメージする中国という国と、人民の実生活には大きな隔たりがある、というのが、20年近く、なんとなく中国と関わり続けてきた私の実感だ。
それらを「情報」と呼ぶなら、情報によって喚起されるイメージを鵜呑みにすると中国はどんどん見えなくなるぞ、という一種の警戒感のようなものは、たびたび中国を旅行していたこの時期に培ったと思っている。(「はじめに」より)
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