梨木香歩■ 西の魔女が死んだ
「ママは、まいに見せたくないものを片づけに行ったんです」
「えっ」
まいは驚いた。
「なんだろう。わたし、見たいなあ」
おばあちゃんは、やはり、にやりとして首を横に振った。
「まいにも、人に見せたくないものはあるでしょう」
「そうかなあ」
まいは一応とぼけた。
「人は大人になろうとするとき、そういうものがどんどん増えていくんです。まいのママは……」
と言って、おばあちゃんは、煙草とマッチの箱と灰皿を取り出し、煙草に火をつけた。
「あの部屋で大人になっていきましたから、そりゃあたくさんあると思いますよ」
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■ 西の魔女が死んだ|梨木香歩|新潮社|2001年 08月|文庫|ISBN:9784101253329
《キャッチ・コピー》
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。
西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも…。
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