小林信彦■ 定年なし、打つ手なし
たしかに、目先のピンチに対して、小説や思想書は何の力も持っていないように見えます。
少くとも、ハウトゥものとしての役には立たないでしょう。
しかし、読み方しだいでは、それらはあなたの内的な力、武装になるかも知れません。おそらくなるでしょう。
ここで、たとえばドストエフスキイの名前を出したりすると、その〈古さ〉を笑われるでしょぅ。しかし、ピンチにある人を勇気づけるのは、そうした読書なのです。〔…〕
また、〈古典〉については何か大きな誤解があるようです。
たとえば、ドストエフスキイはバクチ好きで少女に手を出したらしいアブナイ人物です。
バルザックは女と金のために、コーヒーをがぶ飲みして小説を書きとばした男です。
ぼくが尊敬する谷崎潤一郎は女性の足のフェティシストでマゾヒストです。川端康成だって近年のフーゾク〈イメクラ〉の原型になった『眠れる美女』を書いた、とんでもない人です。
そういうアブナイ人たちが苦心して書いた作品だから面白いのです。〈古典〉などと思わずに、〈危険なエンタテインメント〉として、ぜひ読んでみてください。
――〈危険な本〉のすすめ(『新潮文庫の百冊』)
*
*
■ 定年なし、打つ手なし|小林信彦|朝日新聞出版|2004年 04月|ISBN:9784022579102
★★☆☆☆
《キャッチ・コピー》
老年問題の“傾向と対策”。さて、どうしたものか?中年の不安、老年のとまどい。“不自由な自営業者”たる作家が、迷える日本人たちに贈る、趣味や思い出の語りもたっぷりのコバヤシ式“総合学習”テキスト・エッセイの決定版。
| 固定リンク
コメント