佐々木譲■ 警察庁から来た男
藤川が、無邪気に訊いた。
「退職後のことって、そんなに大事な問題なのか?」
津久井は答えなかった。答えようがない。
そんなに大事な問題なのか、と問わねばならぬことだろうか。警察官にとって、それは職業人生のなかばを過ぎたあたりから、昼も夜も頭を離れぬ大問題となる。〔…〕
大部分の警察官は、退職後は自力で再就職先を探し、現場労働者として働いて年金給付年齢がくるのを待つ。
しかし、いちばんの大口再就職先と考えられている民間警備会社だって、現場要員として年配者は敬遠する。若い自衛隊退職者を優先採用するのだ。採用されても、賃金はおそろしく低い。〔…〕
つまり大部分の退職警官は、何の専門性も生かすことのできぬ民間企業に再就職し、慣れぬ仕事で苦労して、たちまちのうちに老けてゆくのだ。天下り先に困ることのないキャリア官僚であれば、想像もつかない第二の人生かもしれないが。
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■ 警察庁から来た男|佐々木譲|角川春樹事務所|2008年 05月|文庫|ISBN:9784758433396
★★★☆☆
《キャッチ・コピー》
北海道警察本部に警察庁から特別監察が入った。監察官は警察庁のキャリアである藤川警視正。『笑う警官』に続く道警シリーズ第2弾。

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