山本淳子■ 源氏物語の時代―― 一条天皇と后たちのものがたり
敦成誕生五十日の祝いが催され、公卿ら歴々の出席のもと大いに賑わった。宴が進み、彰子の御簾のもと女房たちが二列三列に居並ぶ場に座が移される頃になると、人々は酔い乱れてそれぞれの本性を現した。〔…〕
「失礼。このあたりに『若紫』さんはお控えかな」。
女房の集団をうかがい『源氏物語』女主人公の名で紫式部に呼びかけるのは、文化の世界の重鎮、藤原公任。
大切な女主人公を酒の肴に使われて、式部には心外だったようだ。光源氏に似た殿方も目に付かないのに若紫がいるもんですか、と無視する。
しかしこの一言は『源氏物語』研究史の上では重要だ。これによって、寛弘5(1008)年に「若紫」の巻があったことが確かに知られるからだ。
――第7章 源氏物語
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■ 源氏物語の時代――一条天皇と后たちのものがたり|山本淳子|朝日新聞出版|ISBN:9784022599209 |2007年04月
★★★★☆
《キャッチ・コピー》
『源氏物語』を生んだ一条朝は、紫式部、清少納言、安倍晴明など、おなじみのスターが活躍した時代。
藤原道長が権勢をふるった時代とも記憶されているが、皇位継承をめぐる政界の権謀術数やクーデター未遂事件、当時としてはめずらしい「純愛」ともいうべき愛情関係。
ドラマチックな一条天皇の時代を、現存する歴史資料と文学作品、最新の研究成果にもとづいて、実証的かつ立体的な「ものがたり」に紡ぎあげる。

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