福田陽一郎■ 渥美清の肘突き――人生ほど素敵なショーはない
さて、劇場では隣り合わせに座る、舞台が始まる。他の誰かと観に行った時は知らないが、15分か20分経つと隣席の渥美ちゃんから無言の軽い肘突きが来る場合がある。
これが問題で、つまり「こりゃダメだから一幕で帰ろうぜ」の合図なのだ、これが「渥美ちゃんの軽い肘突き」である。〔…〕
なぜ肘突きになるか、渥美ちゃんの言葉に拠ると、「最初の15分でお客を舞台に引っ張り込めなければダメだろう? 余程のことがなけりや後はしれてるよ。うんと親しい役者がやってるなら別だけどさ」
渥美清の言う事には一理ある。〔…〕難しいと言われる芝居でも説明や解説的な事で20分も費やしていたら、いい台本とも言えないし、いい演技・演出とはとても言えない。
「肘突き」で困る事は先ずなかった。彼の直感は正しい事が多かったし、彼も観客を「威かす演出」は嫌いだったから。
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■ 渥美清の肘突き――人生ほど素敵なショーはない|福田陽一郎|岩波書店|ISBN:9784000220422 |2008年05月
★★★☆☆
《キャッチ・コピー》
昭和20年代の東京を駆け抜けた青春、テレビ草創期のエピソードと創造の舞台裏、数々のスターの素顔と交遊、そしてコメディやミュージカルへの熱い思いを軽妙な筆致で綴る自伝。
《memo》
脚本家・演出家 福田陽一郎の“回想録”であって、“渥美清“本ではない。

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