石川直樹◆最後の冒険家
彼には彼自身の美意識があって、それを実践するためには一線を越えることも辞さなかった。
公務員の仕事をしているときの神田は世を忍ぶ仮の姿であり、気球に乗っているときにこそ、生きている実感を得ることができた。
さらにいえば、気球による前人未到の冒険を実行するときにこそ、彼は自分自身の存在を認め、まばゆいばかりの強い光を内側から放ちはじめる。神田にとって、気球は趣味でも道楽でもなく、自らの生と直結するアイデンティティそのものだったとぼくは考える。
世の中の多くの人が、自分の中から湧き上がる何かを抑えて、したたかに、そして死んだように生きざるをえないなかで、冒険家は、生きるべくして死ぬ道を選ぶ。
ぶれずに自分の生き方を貫くことは、傍から見れば不器用に見えるかもしれないが、神田は本当の意味で生きていたのだ。自分の衝動にあらゆるものを賭け、全力で生き続けたのだ。
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◆最後の冒険家|石川直樹 |集英社|ISBN:9784087814101 |2008年11月
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《キャッチ・コピー》
熱気球による太平洋横断の途上で消息を絶った神田道夫との4年半。現代における冒険とはなにか? 第6回開高健ノンフィクション賞受賞作。
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