井上章一◆日本に古代はあったのか
貴族の時代から武士の時代へと、世の中がうつっていく。それを新しい中世のはじまりだとする教育が、私たちにはほどこされていた。
そんな中世も、15世紀にはみだれだし、やがて乱世の戦国時代となる。この混乱が、最終的にまとめあげられたのは、江戸に統一政権ができてからであった。だから、江戸時代以後を、新しい近世と位置づける。〔…〕
しかし、どうだろう。この時代区分、ちょっとへんだと思わないか。
中世と近世の新しい時代は、鎌倉時代と江戸時代で、はじまるという。つまり、新時代は、いつも関東地方で開始されることになる。〔…〕
ながらく教科書の定番とされてきた時代区分は、関東びいきの思惑でできている。関東を進歩的だと考え、近畿をより停滞的なところとして位置づける。
そんな関東優位史観が暗暗裡にはたらいて、かたちづくられている。〔…〕
とにかく、関東へ中心のうつることが、世の中を新しくする。近畿に中心のあるあいだは、古いよどみとみだれがなくならない。そんな価値観にもとづいて、中世と近世は、設定されてきたのである。
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◆日本に古代はあったのか|井上章一 |角川学芸出版|ISBN:9784047034266 |2008年07月
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《キャッチ・コピー》
私たちの歴史観は、時代区分の位置づけにより大きく左右される。日本では明治以後、武家の台頭が中世の起点となるが、中国の中世は日本より数世紀先んじている。一方、西洋には古代がない国もある。ユーラシアの東端にある列島は世界史のなかにどう位置づけられるのか。日本史に新たな光をあてる。
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