高橋一清◆編集者魂
思えば、私の仕事は身内に多くの犠牲を強いて成り立っている。〔…〕
休日に家族を連れて出掛けようとするところに、「原稿が出来た」との電話が入ると家族の約束を破って、先生の許に走った。「まただ」との家族の失望した声が今も耳から離れない。
書きあぐねている作家の繰り返しかかってくる電話、原稿を返却した人からの恨みごとの電話。あるいは出版した本の新聞広告の扱いについての苦情の電話。〔…〕
編集者は全身で作家に向かい合う。そういう全幅の信頼の中で、作家は初めて殻を破り、才能を開花させる。
作家、特に新人作家にとっては、自分ひとりを相手にしている人と編集者を思うこと、またそう思って励む時期が必要なのである。私は仕事に「滅私奉公」の心構えで臨んでいた。そのため犠牲になるのが家族である。
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◆編集者魂|高橋一清 |青志社 |ISBN:9784903853444 |2008年12月
★★★★
《キャッチ・コピー》
芥川賞・直木賞作家を最も多く育ていくつもの名作、話題作を世に送った元文藝春秋の編集者が初めて明かす作家の素顔。司馬遼太郎/松本清張/和田芳恵/立原正秋/阪田寛夫/中上健次/有吉佐和子/中里恒子/芝木好子/江藤淳/辻邦生/大岡昇平/遠藤周作/中野孝次
《memo》
「私はかねがね30歳までに、文藝春秋で雑誌記者をしているなら、世間が驚くようなスクープ記事を書く、文藝雑誌編集者なら、芥川賞・直木賞の受賞作品を担当する、出版部での仕事だったら、ベストセラーの作品を世に送り出す。これが果たせなかったら、この職業は不向きだから転職を考えると心に言い聞かせていた」(本文)
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