高山文彦◆エレクトラ――中上健次の生涯
いつもとは違う鈴木の雰囲気に、健次は黙ってつぎの言葉を待った。
鈴木は世界的にその名と作品が知られた日本の作家を幾人かあげて、この人たちは被差別部落の出身という話があるが、もしそれがほんとうだとしたら、その事実を隠して書いている彼らを自分は絶対に認めない、と言った。〔…〕
すると健次はすぐに察したように、顔色を変えて、
「おまえ、わかって言ってるんだろうな」
と、ほとんど立ちあがりかねない気配をみなぎらせて、鈴木をにらみつけた。〔…〕
「失礼な言いかたをして、すまないと思うよ。ただ、おれが言いたいのは、それを暴露しろということじゃないんだ。
書く気持ちのなかで隠すな、ということだよ」
「そんなことは言われなくたって、わかってるよ」
*
◆エレクトラ――中上健次の生涯|高山文彦 |文藝春秋 |ISBN:9784163696805 |2007年11月
★★★
《キャッチ・コピー》
"最後の無頼派"中上健次はいかにして作家となり、いかに死んでいったのか。幼少期から腎ガンの病室までを執拗に追った傑作評伝
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