池内紀◆異国を楽しむ
やがてハタと気がつく。海外旅行は異国へ旅するのではなくて、自分が一人の異人になることらしいのだ。
自分にまつわるもろもろ、いっさいが無効になる。いまや地位や肩書はおろか存在すらも怪しい人間であって、外務大臣に保証のハンコを捺してもらわなくては、どこであれ通用しない。存在すら認めてもらえない。〔…〕
ともあれ、ときおり異人になってみるのも悪いことではないかもしれない。異国を知る以上に、もっとべつのことに気がつく。
たとえばの話が、そもそもカタコトの外国語が通じただけで、どうしてこうも相手とわかり合った気持がするのだろう。その瞬間、恐い人種のように思っていた外国人が、ゴホービをもらった子供のような顔をしたではないか。
異国を楽しむと同時に、異人としての自分を楽しむ。
* ◆異国を楽しむ|池内紀|中央公論新社|ISBN:9784121018854|2007年02月|新書 ★★★★ 《キャッチ・コピー》 言葉の壁に突き当たり、知らない食べ物に変調をきたし、ホテルのバスルームでため息をつく。けれど、ままならない瞬間にこそ、異国の醍醐味がある。著者ならではの旅の記憶が詰まった、異国のススメ。 《memo》 旅を誘う本、第1位。しかし今年は、空港チェックで時間がかかったり、停留されるのも嫌なので中止かなあ。
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