佐藤嘉尚◆人を惚れさせる男――吉行淳之介伝
「気持ちのいいお家ですね」
「そうか。キミは初めてだったんだね。家を造るってのは疲れるというから、オレは設計に一切タッチしなかったんだけど、ま、悪くないと思っている。
ただ、この暖炉だけが、ちょっと仰々しいから気になってるんだ。来る人に、これはチラシやダイレクトメールや生原稿を燃やすためのものなんだ、といちいち解説しなきやいけない。
何だか、解説のいる暖炉なんだ」
「全然気になりませんけどね」
「そうか。それならいいんだが」
淳之介は、活字になった生原稿は生々しくてイヤだと言って、すぐ燃やしてしまうへキがあった。
市ヶ谷や北千束の家では、庭でたき火をやるようにして燃やしていたのを、今度は暖炉でやることになったわけだ。
*
◆人を惚れさせる男――吉行淳之介伝|佐藤嘉尚|新潮社|ISBN:9784103146315|2009年04月
★★★
《キャッチ・コピー》
友情に厚く律儀な一方、「個人主義」を頑ななまでに貫いた、独自なスタイルの作家・吉行淳之介。吉行が初代編集長をつとめた「面白半分」を創刊し、彼を人生の師匠とあおぐ著者が描いた男の達人の生涯。
《memo》
伝記というよりエピソード集?
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