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2009.07.22

ノンフィクション100選★生存者の沈黙|有馬頼義

Nonfiction100

1966

問 乗船者ノ人数ハ知ッテイルカ。

答 2004名デアル。

問 コトゴトク民間人デアックカ。

答 確答ハ出来ナィ。シカシ軍人ハイナカッタト思ウ。

問 婦人ハ乗船シテイタカ。

答 イタ。

下川勘次が、ここでびっくりしたのは、法廷にいたアメリカ人が、そのとき一瞬沈黙し、中に、胸で十字をきった者がいたことであった。質問は更に続いた。

問 ソノホカニ、乗船者ニツイテ何力知ラナイカ。

答 シンガポールヲ出港シテ間モナク、乗船シテタ銀行ノ支店長夫人ガ、女ノ子ヲ出産シタ。

そのとき、再び、前と同じことが起った。下川勘次は、非公式に法廷に出廷していた、ニミッツ提督と裁判長が、一様に愕然とし、両手をひろげて「オゥ・ノウ」と云ったのを見た。

下川勘次は、証人であり、戦争という大きな激動の中の、ほんの片隅にいたのだが、そのとき、自分の証言が人間として重大な意味を持っていることに気付いた。

生存者の沈黙|有馬頼義|文藝春秋|19664

memo

阿波丸事件を扱った小説仕立てのノンフィクション。

大型貨客船阿波丸が、太平洋戦争末期の昭和20(1945)4月、台湾海峡において、米国潜水艦クイーンフィッシュにより撃沈された事件。

2千名余りの乗客乗員は、一人の生存者・下田勘太郎氏を除いて全員死亡した。阿波丸は連合国側から往復路の航海絶対安全を保証されていた「緑十字船」であった。

有馬頼義は、4年後のエッセイ集『原点』(1970)の「交換船阿波丸の謎」のなかで、「阿波丸に関する日本側の資料は、海軍の軍事評論家、千早正隆氏の著書と、僕の『生存者の沈黙』の2冊しか現存しない」としている。

それから30年、この事件に材をとったエンターテイメント、浅田次郎『シェエラザード』(1999)が現われた。

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