ノンフィクション100★小説より奇なり|伊丹十三
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それから、咄の中でそばを食う――こういうのは、やっぱりそういうことを研究して、うまい人とまずい人とありますがねえ、そば食うのがうまい人と、うどん食うのがうまい人と――で、いくらやってもうまくできない人がある。〔…〕 箸の持ってき方でもねえ、こうやってそばを箸で取って、箸を口もとへ持っていくとねえ、こりゃそばを食ったように見えない。 ツゥーッと、こうやるてえと食ったように見える。箸がこう上がるんですねえ、口を通り越して額のあたりまで箸を持っていく。持っていきながらツゥーツと音を立てて吸い込むんですねえ。〔…〕 これがネ、芸のウソなんですねえ。芸のウソでありホントである。ツゥーッと、ね、箸をここまで上げる、必要以上に上げるんですよ、するとそばがツルツルとはいっていくような、へへッ、錯覚を起こすんですよ。 だから形なんてどうでもいいなんてえことをいうが、いやあ、とんでもない、折角うまく咄をしてて形で壊しちゃうことがあるんです、へえ。 ――この人の塩梅・三遊亭円生篇 ★小説より奇なり|伊丹十三|文藝春秋|ISBN:9784163327709|1973年10月 |
《memo》
伊丹十三の最初の著作は『ヨーロッパ退屈日記』(1965年3月・文藝春秋新社・ポケット文春)。当時は、伊丹一三。あとがきに「婦人雑誌の広告に、ほら、『実用記事満載!』というのがあるでしょう。わたくしの意図もまたこの一語に尽きるのであります」とある。
本書『小説より奇なり』は5冊目の著書。表紙に「談話の活字化に於ては日本一の定評ある著者が昭和文壇を震がいせしめたる名筆記録」とある。たしかにインタビューの文字化、新しい言文一致体は伊丹十三がつくった。つぎに文体の革命がおこるのは1979年。『さらば国分寺書店のオババ』によって椎名誠が登場する。
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