池内紀◆日本風景論
現実の富士山は異様な、幻想的な山であって、エキゾティックですらあるだろう。それを自分のなかの富士山にはめこもうとすると、何かがはみ出す。〔…〕
日本人の風景観には、いつもどこかに富士山がひそんでいるのではなかろうか。
富嶽百景が東海道中のすべてにしみついているように、日本人の精神的図柄のなかには、おなじみの三角のお山が写し絵になっている。
現実の景観はつねに異様であり、親しみにくいのだ。マッチのラベルに縮小し、三十六景、あるいは百景に再生されて、ようやく夢の風景になる。
この国の風景は地図よりもむしろ夢想のなかにある。〔…〕
写真の絵葉書が実写であるにもかかわらず、かぎりなく浮世絵に似てくるのはそのせいだ。
――「山麓徘徊」
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◆日本風景論|池内紀|角川学芸出版|ISBN:9784047034426|2009年03月
★★★
《キャッチ・コピー》
宗谷岬、那智の滝、四国の遍路路、富士山――。日本各地の懐かしい風景、新しい風景の中を歩きながら人に出会い、歴史と文化に思いを馳せる。日本の風景と暮らしの豊かさをゆったりと味わう紀行エッセイ。
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