佐野洋子◆役にたたない日々
一週間一度病院に行く。骨が痛いので点滴をしに銀座を越えてゆく。タクシーが高いので、今日は自分で運転して行く決心をした。ほとんど一時間余裕を持って出発した。
人に運転してもらったり、タクシーに乗ったりして何回も行っているのに迷うかも知れないので用心深く真面目な心を持った。
昭和通りを越えたら、病院が高くそびえ立っていた。左前方にそびえている。橋をわたって直進したら病院は左後方に立っている。左折したら今度は右後方に立っている。〔…〕
私は病院の周りをぐるぐる何周もしたが、山の中で狸に化かされている人と同じだった。
40分もぐるぐる回った。
仕方がないので空のタクシーの前に止まって「すいません、××病院に行って下さい。私あとをついて行きます」。
空のタクシーのあとをついて行ったら、3分でついた。私は生まれて初めて、乗っていないタクシーに金を払った。
*
◆役にたたない日々|佐野洋子|朝日新聞出版|ISBN:9784022504258|2008年05月
★★
《キャッチ・コピー》
「68歳は閑である。淋しい? 冗談ではない。この先長くないと思うと天衣無縫に生きたい、思ってはならぬ事を思いたい」人生の名言がゴロゴロ転がっているエッセイ集。
《memo》
羞恥心なきボケの日々。
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