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2009.08.31

ノンフィクション100選★匠の時代|内橋克人

Nonfiction100

1978

「とにかくディスプレイに漢字を出してみることだよ」と、ある日、河田勉が提案した。

「そうですね。コンピュータの歴史はじまって以来、いまだかつて漢字がディスプレイの上に姿を現したことはないわけですからねえ。やってみましょう

天野真家が応じた。

リーダーの森健一から「カナ漢字変換はどう?」とテーマを与えられた二人は、きっそくコンピュータに入れるべき日本語文法と辞書づくりに取り組んだ。

そのかたわらブラウン管上にムリヤリ漢字をひねり出せるような端末の製作にとりかかったのだった。

イメージを何はともあれ形にしてみよう、という発想である。

――「ワープロ誕生の日 東芝」『新・匠の時代 1(1987)

★匠の時代|内橋克人|サンケイ出版/日本経済新聞社/文藝春秋|19781988

「匠の時代」シリーズは、1978年から夕刊フジに連載された。その後、サンケイ出版から全7(19781982)、日本経済新聞社から海外編全3(19811982)、文藝春秋から全2冊(19871988)の計12冊が刊行された。三菱電機・ふとん乾燥機、小西六・自動焦点カメラ、東レ・人工皮革から10年におよぶドキュメント・シリーズがはじまる。

 上掲は東芝・総合研究所のワープロ開発の1場面。東芝は初の日本語ワードプロセッサJW-101979年に発売する。価格は630万円であった。

わたしの職場では、外部への公式文書のみ和文タイプで作成していた。ワープロ専用機を導入したのは1982年、事務机と同じ大きさだった(この年富士通が85万円で販売)。各職場に入れるには、労働組合との事前協議が必要で、使用を強制してはならないこと、電磁波から守るため使用時間の制限など、わずらわしい取り決めがあった。

内橋克人は「研究・技術開発の現場において、具体的に誰が発想者なのであり、どの研究者、技術者がそもそも困難な技術の壁を破ったのか、無名の戦士たちについて」「技術開発史の欠落部分である『個人史』を形あるものにまとめたい」と執筆の動機を語っている(講談社文庫版第2巻あとがき)。

 NHKの人気番組「プロジェクトX~挑戦者たち~」(20002005)は、本書にヒントを得た開発プロジェクトの物語である。事実、東芝・ワープロ開発も「運命の最終テスト~ワープロ・日本語に挑んだ若者たち」として2002年に放映された。単行本は『プロジェクトX~挑戦者たち~16 開拓者精神、市場を制す』(2003)に収録されている。

 さらに内橋は、個人の才能に負うところ大きいのに「開発技術者たちの多くは、いまだ功もならず名をあげるにも至っていない」とし、かれらの苦闘や正義感がなければ企業の未来はなかったのに、と書く。

 なお、上掲の東芝・ワープロ開発の一人、天野真家氏(湘南工科大教授)は、2007年に発明対価として約26000万円を東芝に求める訴訟をおこした。天野氏は「技術立国を支える技術者の地位向上を図りたい。ワープロ発明者の名誉のために提訴した」と動機を語っている。

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