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2009.09.02

ノンフィクション100選★本の雑誌血風録|椎名誠

Nonfiction100

1997

「名刺だってフツー100枚は刷りますもんね」

うーむ、と思った。目黒に電話した。〔…〕

目黒も唸っている。

「じゃあ300といくか!」

「よおし」

やや鼻息を荒くして印刷屋に電話した。〔…〕

「ええ。500いきましょ、50500も印刷料金としたらたいした違いないですから」

もう何がなんだかわからなかった。50人しか読者がいないのにその10倍もつくってしまってどうするんだ……という冷静な思いはたえず頭のうしろ側でチラチラしていたが、しかししょうがない。〔…〕

その夜おそく目黒にそのことを電話した。

500部できあがってくるぜ」

「えっ!」

目黒が絶句した。

★本の雑誌血風録|椎名誠|朝日新聞社|ISBN9784022571519 19976

『本の雑誌血風録』は、椎名誠、目黒考二らによって創刊された“書評とブックガイド”誌「本の雑誌」1976年の創刊前後から椎名のデビュー作『さらば国分寺書店のオババ』(1979)発刊ごろまでの“自伝的大河青春小説実録篇”(帯のキャッチ)である。それにしても“実録自伝小説”()とは何か? そういういい加減さが著者の本領で、ノンフィクションなのだが、主観だけで書き、事実を精査してないから小説と称する、といったところか。

 仲間の目黒考二に『本の雑誌風雲録』(1985)という似た題名のものがあって、これは取次を通さず直接書店に雑誌をもちこむ“配本部隊”を記述したもの。こちらも“実録自伝”といっても差し支えないメモ書き風ドキュメントである。

 いま手元に「本の雑誌」12(1979)があるが、四谷にはじめて事務所をかまえ、一挙に2万部刷った号。どうみても手づくり同人誌である。表紙は2色刷、本文84頁、定価200円。「輝け!第1回全国ウスバカ的無価値的チリガミコーカン的ガリバン誌コピー誌熱血コンテスト」がトップ記事。取り扱い書店は全国で約120店。

 60年代に「私はぁ、それでぇ……」といったアクセントの話し言葉が学生運動家から始まり若い人に浸透したように、80年代は椎名誠のウスバカ的無価値的チリガミコーカン的“昭和軽薄体”が若い人の圧倒的な支持を得、みんなこの文体を真似たのである(わたしも)。本書のシリーズ第1『哀愁の町に霧が降るのだ』(1981)などは“スーパーエッセイ”と称していた。スーパーマーケットのスーパーである。

しかし同人誌といわれることを嫌いながら、隔月刊と称しじっさいは年4回発行とか、執筆者の目黒考二、北上次郎、藤代三郎が同一人物だとか、いかにも同人誌的である。椎名誠の文章には得るべき情報がほとんどないことがわかったり、本の広告を載せないと矜持をしめしたり「死ね死ね角川文庫」と本誌で罵倒しながら、自分たちの本は角川文庫から出す、とじつに“うっとおしいやつら”であった。

 ところが毎月正確に発売され、同人誌的色彩が薄れるとともに、雑誌も魅力がなくなって、買うことも手に取ることもなくなった。「本の雑誌」はミニ目黒、ミニ椎名たちによって続き“熱血コンテスト”の精神も継承され、いまは“本屋大賞”となった。

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