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2009.10.08

ノンフィクション100選★竹島密約|ダニエル・ロー

Nonfiction100

2008

竹島・独島問題は、解決せざるをもって、解決したとみなす。したがって、条約では触れない。

(イ)両国とも自国の領土であると主張することを認め、同時にそれに反論することに異論はない。

(ロ)しかし、将来、漁業区域を設定する場合、双方とも竹島を自国領として線引きし、重なった部分は共同水域とする。

(ハ)韓国は現状を維持し、警備員の増強や施設の新設、増設を行わない。

(二)この合意は以後も引き継いでいく。

竹島密約は、二つの意味で失われた。一つは、河野一郎が書き、丁一権を通じて朴正熙に伝えた取り決めの文書そのものが失われた。これを「紙の喪失」と呼ぶことにする。

しかし、これよりもっと深い意味をもつのは、竹島密約の趣旨や精神を韓国側が継承できなくなったことである。竹島密約を生み出した「精神の喪失」である。

★竹島密約|ダニエル・ロー|草思社|200811

秋にソウルへ行く計画をしたとき、ネットでときどき「朝鮮日報」日本語版ChosunOnlineを読んでいた。たとえば、竹島=独島の記事……、あいかわらず熱い。

*独島訪問、クリック1回で申請可能に [2009/08/27]

独島への入島申請がクリック1回で可能になる。 慶尚北道は、インターネット上で独島訪問のための入島申請などができる統合支援システムを立ち上げ、10月から本格的に運用を開始すると発表した。

*日本独島簒奪陰謀糾弾決議大会 [2009/08/15]

独島守護全国連帯と韓国独島問題研究所の会員らが、タプコル公園(ソウル市鐘路)の三一門前で『日本独島簒奪陰謀糾弾決議大会』を開き、独島を日本領土と記述した日本の教科書に火をつけている。

*独島:友の死乗り越え世界30カ国でアピール [2009/08/14]

ソウル大生5人と延世大出身の元中学教師が「独島レーサー」という団体を結成し、「独島は韓国の領土」ということを世界にアピールするため、1年間かけて世界1周を目指そうとしている。

日韓両国の人の往来は現在11万人だ。しかし、1965年、日韓基本関係条約が発効し、両国の国交が正常化した当時は、年間1万人だったという。

日韓国交正常化の最大の懸案は、竹島・独島問題の処理だった。日比谷公園ほどのこの島を爆破して無くしてしまおうという案もまことしやかに検討されたという。

ダニエル・ロー『竹島密約』は、1960年代の正常化交渉をめぐるノンフィクションである。河野一郎国務大臣と丁一権首相の間で「未解決の解決策」という密約があった。上掲は密約文書の一部である。

当時は朴正熙大統領。表面はともかくこの“親日的”軍事政権は全斗煥、盧泰愚とつながっていく。しかしそのあと“文民政府”となり、金泳三、金大中、盧武鉉と続くのだが、「竹島密約は軍事政権下では守られたが、金泳三大統領はその存在すら前任者から引き継いでいなかった」(本書)

竹島密約の趣旨や精神を韓国側が継承できなくなった「精神の喪失」とは何か……。金泳三政権が仕掛けた「歴史を正しく立て直す」運動。軍事政権の正統性を否定し、親日的な社会風潮を変えようとした。

そしてもう一つ。1997年に表面化した金融危機。その結果、「40代、50代の人間が会社にとどまるのは泥棒と同じ」といった公共機関、民間企業で実施されたリストラ。この急激な世代交代によって、「韓国社会は、良い意味ではダイナミックになったが、悪い意味では未熟な社会へと変貌した」という。

 密約文書のなかの「解決せざるをもって、解決したとみなす」という、ある意思をもって解決しないことを選ぶという言外のニュアンスを間違いなく読み取れる日韓関係の文化が消滅した、と著者がいう。最近の朝鮮日報の記事を見るにつけうなずける。

下條正男『竹島は日韓どちらのものか』(2004)の「重要なのは、事実そのものよりも、行為や発言に対する評価なのである。史料が先か、歴史認識が先かといえば、朝鮮では歴史認識が優先していたのである」という一節をあわせ考えると、竹島・独島問題の解決はますます遠のいていく。

「今、40年前とは別の文化をもつ日韓両国民の英知と想像力が試されている」と『竹島密約』の著者は結ぶのである。

なお、北方領土、尖閣諸島、沖ノ鳥島、与那国島、対馬、そして小笠原諸島、硫黄島…、国境を訪ねたドキュメント、西牟田靖『誰も国境を知らない――揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅』(2008)に、韓国の観光船によって竹島に上陸した旅も収録されている。

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