ノンフィクション100選★コリアン世界の旅|野村進
韓国人とベトナム人との反目は、元を辿ればすべてベトナム戦争時の両者の不幸な出会いに根ざしている。 戦争中の住民虐殺や、混血児を置き去りにした行為の延長線上に、ベトナム人の韓国人観はある。同様に、戦場で敵として見せつけられたベトナム人の権謀術策や、戦楓に翻弄されつづけてきたベトナム庶民の生きるがための「嘘」や「ずるがしこさ」の上に、韓国人のベトナム人観は立脚している。〔…〕 韓国人は、南北統一を成し遂げたベトナム人を羨望しつつ蔑み、 ベトナム人のほうも、いまや“先進国”の仲間入りをしようかという韓国から来たリッチな韓国人たちを羨望しつつ嫌う。 こうした感情のもつれをそのままに、韓国人とベトナム人とは一気に経済のパートナーとして(おそらく今後はライバルとして)再び相まみえることになった。 ★コリアン世界の旅|野村進|講談社|ISBN:9784062080118|1996年12月 |
野村進『コリアン世界の旅』(1996)は、日本に住む韓国・朝鮮系の人びとと日本人との間の「見えない壁」をさぐり、“在日”の直面する問題を掘り下げたノンフィクションである。
第1部で、“新しいタイプの韓国系日本人”歌手にしきのあきらの生き方、在日経営者が多い焼肉店、パチンコ店をめぐる問題など、日本の地における「コリアンとは誰か」を追う。
第2部では、英語もナイフ、フォークも必要のないロサンゼルスのコリアンタウン、のべ31万人の韓国兵士を送り込んだベトナム戦争の地にもどってきたコリアンなど、海外の韓国人を描く。
第3部は、大震災のあとの神戸・長田に生きる人びとなどをとりあげ、「新しい方向」を示唆する。
わたしは、その第3部で取り上げられている歌手・新井英一を、じつはまったく知らなかった。「清河(チョンハー)への道」は、最後まで歌うと小一時間かかり、「一曲ライブ」といって、この歌だけを歌ってステージが終わることもあるそうだ。ぜひ聴いてみたい。以下、本文より引用……。
……父の故郷の土を踏んで自由に生きる決心をした「俺」は、再び釜山港から船に乗り、家族が待っている、自分が「生まれて育てられた国」日本へと帰っていく。
旅からわが家に帰り着き迎えてくれる家族見て
みんなの笑顔が嬉しくて家族が俺の国だよと
妻と子供を抱き寄せた
そして、最終48番――。
俺のルーツは大陸で朝鮮半島と言う所
俺の親父はその昔海を渡って来たんだと
ひ孫の代まで語りたい
アリアリランスリスリラン
アラリヨアリラン峠を俺は行く
あとがきで日本のマスメディアは「通名(日本名)を名乗っていたり、日本国籍を取っていたりするがため、私たちから『見えなく』されている大多数の韓国・朝鮮系の人たちの日常の姿」がすっぽり抜け落ちていると批判している。
著者には『海の果ての祖国――南の島に「楽園」を求めた日本人』(1987)をのち加筆し改題した『日本領サイパン島の一万日』(2005)という、日本統治領サイパンの30年を、二つの家族の歴史を通して描いた優れたノンフィクションがある。
大学教師でもあり、そのせいか学生に向けて書いたような“上から目線”の筆致が気になる著作もある。たとえば、若者に指南するスタンスの『アジアの歩き方』(2001)、ノンフィクションの書き方ハウツー本『調べる技術・書く技術』(2008)など。
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