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2009.10.28

ノンフィクション100選★アフリカにょろり旅|青山潤

Nonfiction100

2007

私たちの心は、この時すでに擦り切れ始めていたのかもしれない。

日本を出る時には、ラビアータを見たいという思いと、困難に立ち向かう機会を得た喜びに満ちあふれていた。

冒険への、非日常への好奇心ではち切れんばかりの心には、道行く人々の衣装の色や、どこまでも続く茶色の大地、風に向かって立つ象の姿や水面を滑るユーモラスなカバの動き、目にするすべてが生き生きと感動的に映った。

しかし、二カ月近くアフリカを放浪した今、それらはすでに当たり前の風景となっていた。残念ながら、私たちは「日常となった非日常」に、いちいち感動できる感性を持ち合わせていなかった。〔…〕

「ウナギを捕ること」に対するモチベーションを失った私たちが、ここで粘っていたのは、ある種の惰性であったかもしれない。

★アフリカにょろり旅|青山潤|講談社|ISBN9784062138680 20072

「エンタメ・ノンフ」という造語があるらしい。エンターテインメント的なノンフィクションを“オンリーワンの辺境冒険作家”を自称する高野秀行が命名したもので、宮田珠己などと「エンタメノンフ文芸部」を結成したという。その面々がたぶんマッサオになり、たぶんひれ伏すのが青山潤『アフリカにょろり旅』(2007)である。

著者の青山潤は、東京大学海洋研究所でウナギの研究に携わる研究者である。ウナギは、海で産卵・孵化を行い、淡水にさかのぼってくるのだが、その生態は意外と知られていない。ニホンウナギの産卵場所がグアム島近くのマリアナ海嶺のスルガ海山付近であることが突きとめられたのは、わずか前2006年のことである。その発見が著者の所属する研究所行動生態研究室・塚本勝巳教授の「ウナギグループ」なのである。

ある日、塚本教授から著者に、こんな話を持ちかけられる。

「青ちゃん、ウナギは、世界に、何種類いると思う? 18種類だよ。意外と、少ないと思わないか。僕はね、全種類のウナギを机の上に並べてみたいんだよ。すべてのウナギの遺伝子を調べたら、まだ解明できないこともわかるしね」

後輩の渡辺俊研究員と組み、50カ国以上の国で、17種類のウナギを集める。残すはアフリカに生息する「アンギラ・ラビアータ」という熱帯ウナギだけ。宿や食事、移動費用を切り詰めた貧乏調査旅行である。マラウイ共和国、モザンビーク、ジンバブエ。地雷が埋まっているモザンビークは気温52度。毛穴から入り込んで肝臓や脳を冒す「住血吸虫」が潜んでいる湖。ホテルのベッドには小さな赤いアリがウジャウジャ。大きなマンゴを120個という食事。身も心も蝕まれるウナギを探す苛酷な旅。読者にとっては爆笑の「エンタメ・ノンフ」ですね。

 ウナギといえば、中国産や台湾産を四万十や一色産と偽装する事件が多発した。以前読んだ深田祐介『新・新東洋事情』(1990)によれば、当時、中国で養殖したウナギを裂く技術が中国にはなく、いったん香港に送り、そこでベテランの韓国人女性たちが猛スピードで裂いてゆき、香港の工場で蒲焼にして、真空パックに詰めて、日本に輸出していたという。

吾妻博勝『新宿歌舞伎町 新・マフィアの棲む街』(2006)にも、ウナギの話が出てくる。

稚魚のシラスウナギは数センチ前後で無色透明。南の深海から海流に乗って日本沿岸にたどり着く。それが河川、湖沼で水棲昆虫や雑魚を餌に成魚になる。

しかし、これから河川を遡上しょうとするときに、全国各所で網が待ち構えている。この「生きた海の宝」のシラスウナギを手に入れようとタモ網を持って港の岸壁や河口岸に駆けつける人たち。それをヤクザが買い集めに回る。

シラスがなぜ、ヤクザの資金源になるのか。シラスはあくまでも自然の恵みであり、養殖稚魚のように安定供給ができない生き物だからである。シラスの1キロは数千匹。養鰻業者の仕入れ価格は年ごとに大きく変わり、豊漁であれば1キロ10万円を切り、不漁であれば100万円を突破する。

シラスウナギは成田、関西空港から香港経由で密輸される。シラスを入れた厚手のビニール袋をリュックサック、トランクなどで運ぶ。「シャブなら罪が重いから気軽にできないが、シラスは捕まっても知れたものだ」という。シラスは安い人件費で育てられ、それが200グラム前後の大きさになると、加工品、あるいは活ウナギで日本に逆流してくる。

 ニホンウナギは、グアム島近くで産卵し、日本へ、そして香港、中国を経て、再び日本へと、「にょろり旅」を続けるのだ。一句見つけました。

上海語で鰻を捌くをんなかな   田中英子

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