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2009.10.10

ノンフィクション100選★ショーケン|萩原健一

Nonfiction100

2008

あのころ、払わなければならなかったのは補償金だけじゃない。毎月、小泉一十三さんに娘の養育費を送る義務もあった。

しかし、働いて払おうにも、こんなおれを使ってくれるテレビ局や映画会社なんてあるわけがない。マスコミは早くも年内復帰をウワサしていたけれど、実際には子供の養育費の支払いにも四苦八苦してたんだ。

頭を抱えていたら、下馬二五七さんから、

「ハギさん、アルバイトする? ぬいぐるみ着てもらうけど……」〔…〕

やったよ、ぬいぐるみを着て。子供には、中にいるのがショーケンだなんてわかんなかっただろう。スッテンテンなんだから、何だってやるさ。

三カ月間、ぬいぐるみのアルバイトは一日も休まなかった。天地真理ショーのバックで汗だくになって踊ったこともある。

おかげで養育費の支払いは、一回も滞らせなかった。

★ショーケン|萩原健一|講談社|200803

浅草キッド・水道橋博士『本業』(2005)は、タレント本だけの書評集。タレント本とは、「膨大で払いきれない有名税に対するタレント本人による青色申告書」であると定義している。大衆による偶像と、本人が願望する実像、そのギャップを埋めたいというモチベーションによる。有名税と片づけられるスキャンダルに対し、必要経費控除、還付請求をおこなったのが自らペンを取ったタレント本なのだという。

萩原健一には、『俺の人生どっかおかしい』(1984)という前著があり、1983年大麻取締法違反で逮捕された翌年に出版され、本書『ショーケン』(2008)2004年交通事故で逮捕、2005年恐喝未遂容疑で逮捕ののちに出版された。活動再開のための水道橋博士のいう“青色申告書”の役目は十分果たしているといえるだろう。

ショーケンこと萩原健一の歌も映画もテレビドラマも知らない。清酒ワンカップ大関のコマーシャルは知っている程度である。萩原健一、57歳。ファンでなくても、この半自叙伝はほんとうにおもしろい。本書は巻末に構成・赤坂英一とあるが、ディテールにこだわり、情景がうかぶエピソードやゴシップのたぐいが満載である。

「コンサートの前には必ず大麻を吸っていた。例外はただの一度もない」と告白し、こんなエピソード。以下、本書から。

――おれのコンサートには、おれ自身が大麻を吸っていなくても、ファンが大麻を吸ってやってくる。会場に、マリファナ特有の匂いが充満している。それは麻取や警察も先刻承知の上で、いつも会場に麻薬Gメンや私服の刑事を張り込ませていた。〔…〕

コンサートを始めると、ステージへ次から次へと物が投げ入れられる。〔…〕

大麻の紙巻きだ。注射器もある。

拾い上げると、おれは叫んだ。

「誰だ、こんなものを吸っているのは!」

フアンがどよめく。会場が揺れる。

「警察に言うぞ!」

そう絶叫した途端、大歓声がおれとバンドの頭上に降り注いだ。

江波杏子、范文雀、岸恵子、小泉一十三、田中絹代、美空ひばり、いしだあゆみ、マザー・テレサ、樋口可南子、前橋汀子、倍賞美津子、石田えり、島田陽子、瀬戸内寂聴などのエピソード。このうち3人と結婚し、4人とナニの関係だったという。

 美空ひばりに自宅に招かれて、食事の後「歌ってあげる」とアカペラで「悲しい酒」、セリフではステージと同じように本当に涙まで流して見せる。以下、本書からゴシップの例。

――「ひばりさん、いつもそんなふうに歌が歌えるんですか」

にっこり笑って、ひばりさんは言いました。

「ほら、わたし、歌手だから」

「おまえみたいな人間はずっと入ってろ。何が執行猶予だ」といった母。面会に来たガッツ石松と警察とのやりとり。京都の寺で修行するも、寺を抜け出し祇園通いする話。雨の日に傘を持たない土光敏夫との一期一会。四国遍路「歩行禅」の話。「太陽にほえろ!」の裕次郎と飲み歩く話。黒沢明「影武者」の撮影で姫路城近くを走る新幹線をとめてしまう話。勝新太郎、松田優作と「ブラックレイン」のキャスティング裏話。

たしか若いころ、漢字が読めないのでシナリオはカナをふらないといけないタレントだという噂がありましたね。しかし本書でのたとえば「元禄繚乱」の悪役綱吉の役づくりの話との落差が大きい。

斎藤美奈子は『誤読日記』(2005)のなかで、タレント本は旧来の伝記に代わる本としての効用があるという。「いわゆる偉人伝は、戦後日本の読書界、とりわけ小中学生の読書界の花形だった。『本当にいた人の話』には、みんな興味をもつのである。しかし、時代は移り、野口英世やナイチンゲールに自らを重ね合わせるのは、さすがにむずかしくなってきた。そこでタレント本の登場となる」。それにしても田村裕『ホームレス中学生』(2007)のようなスカスカ本が200万部をこえる大ベストセラーになるとは……。

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