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2009.11.05

ノンフィクション100選★新東洋事情|深田祐介

Nonfiction100

1988

中国の観光地が「活性化」しているのは、中国の開放政策のせいじゃない、日本の円高、そして日本人の一種身勝手な「中国幻想」のせいだ、という説もあります。〔…〕

「中国は、礼の文化といってな、礼に非ざれば動くことなかれ、と孔子さまもいってるんだ、中国人が人をだます筈がない」

大抵は中国留学体験の持主である添乗員たちは、「いいえ、文革によって礼の文化は亡びたんです」と反論したいのだが、そんなことをいえば、怒鳴りまくられるのがおちだとわかっているから黙ってしまう。〔…〕

中国へ旅行する、中高年齢層の日本人男性には、「中国大好き爺さん」が多く、添乗員は彼らの扱いにはほとほと疲れてしまうらしい。

「だから中国、やはり中国、さすが中国」というのが「中国大好き爺さん」を形容する場合の合言葉のようになっているのだそうです。

★新東洋事情|深田祐介|文藝春秋|19884

 深田祐介が話し言葉のような文体で書いた『新西洋事情』(1975)に、当時たちまち魅了された。海外で勤務する企業の社員たちの“あぶら汗の一滴、屈折する感情のひだ”を描いたノンフィクションである。その後も深田祐介のビジネスマンのカルチャーショックもののエッセイや小説をずいぶん読んだ。

 

 本書『新東洋事情』(1988)は、「アジアを語ることは、日本の国内問題を語ること」という状況になった1980年代の韓国、台湾、タイ、中国、ブルネイ、フィリピンなどアジア各国に進出した日本企業の現地におけるカルチャーショックと各国の発展ぶりをリポートしたものである。「タブーを書かなければ、アジアを書く意味がないようにおもわれ、そのタブーを書けば、どういう波紋が生ずるか、予断を許さず、気持がすくみがちでした」とあとがきにある。

 その後、シリーズとして書き継がれ、マレーシア、ベトナム、インド、シンガポール、ミャンマーなども描かれる。

ここでは上掲の『新西洋事情』(1975)に続いて、中国の動きを見てみる。

『新・新東洋事情』(1990)では、天安門事件にゆれる中国、南部沿岸地域を中心に急成長をとげる「赤い資本主義国・中国」の実態が描かれる。「天安門事件の衝撃と挫折感から脱しきれず、そして『中国とはなんだ』という、永遠の問いかけに、重く胸を閉ざされつつ、(北京へ)帰任していった(日本企業の)男たちも少なくないのである」。

『最新東洋事情』(1995)では、市場経済が進む中国など日本企業の盛衰をも左右するアジアは日本の救世主か、ライバルかが報告される。

「中国では商売を始めようとすると『3回盗まれる』といわれます。まず担当者に莫大なリベートを取られる。次に製品のノウハウを盗まれ、『もうノウハウはいただいたから、あんたのところは日本へ帰ってくれ』みたいな脅しをかけられる。3番目には、社員に製品自体を盗まれる、というわけです」。

『激震東洋事情』(1998)では、不気味な軍事大国・中国がアジアに及ぼす、さまざまな悪影響を分析し、日本と台湾の友好関係の再構築を提言する。「日中対立について今日に至るまで、江沢民主席をはじめ、中国指導部が繰り返しそれを持ちだすものだから、なんとなくアジアでは反日感情が強く、日本は嫌われているということになっている」。

さらに『中国に媚びてはいけない――東洋事情20002001(2001)では、汚職や偽造が絶えない中国の無軌道、そして「12億人の巨大市場・中国」幻想に酔い、媚び続ける日本の弱腰を糾弾する。「収賄した役人は皆金を持ってマカオに行って、この金はマカオのバクチで儲けた、という証明書を書いて貰って帰ってくる。今やマカオに空港ができて、中国全土から収賄の金を持った役人が金の“洗濯”に駆けつけていますよ」。

著者はタブー何のその“嫌中国、親台湾”が年を追って加速、親台湾のプロパガンダと化し、嫌中国暴走の様相を呈する。中国の近未来予測は(現時点からはすでに過去だが)まったく当っていない。かつて『新西洋事情』で描いた“あぶら汗の一滴、屈折する感情のひだ”の優雅さはどこにも見られない。

 わたしは、返還前の香港を見ておこうと1990年に、浦東新区の本格的開発がはじまった上海へ1992年に、シルクロード入門編として敦煌・西安へ1999年に、台湾を肌で感じておこうと2005年に、それぞれ行った。が、わたしはチベット問題に興味をもつようになってからの中国嫌いであり、なんとなく“二流”のイメージの台湾がいまも好きである。

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