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2009.11.11

ノンフィクション100選★世界の性革命紀行|上前淳一郎

Nonfiction100

1980_2

すでに性革命を通りすぎたか、いまそのさなかにある国の人びとは、なるほど子供のうちからセックスについて多くを知り、あるいはそれを自由に見たり行なったりしているだろう。

しかしそれを引き換えにその人びとは、性にまつわる多くの心理のひだをめくり捨ててしまった。〔…〕

性革命とはどの国でも、性におおいかけられていた神秘のベールをひっべがすことだった。

だがその結果、人びとはほんとに幸福になっただろうか。ペニスのサイズを測り、クリトリスの形状を調べ、持続時間を質問状に盛り込んで、いったいなにが得られただろう。

性とは統計でも知識でもなく、心理の発現である。だから、よく知っているものに愉楽より大きい保証はまったくない。

むしろ、子供のころから男と女が交合することになんの神秘も見出さずに育ってしまった人たちこそ、心理的に貧しい性生活しか持てなくなる危険があるというべきだろう。

★世界の性革命紀行|上前淳一郎|講談社|19802

 ここにノンフィクション作家の3冊の本がある。70年代末から80年代初めに書かれた“セックス革命”に関するものである。今になってはなつかしい。

エイズは、1981年にアメリカのロサンゼルスで最初の症例報告があった。日本では1985年である。すなわちエイズが世界に蔓延する以前に書かれた本である。

1980年に最高裁は、月刊誌「面白半分」に掲載された永井荷風の作とされる戯作『四畳半襖の下張』(19727月号)を、刑法175条のわいせつ文書販売の罪に当たるとした。そしてビニ本ブームは80年代、週刊誌にヘアヌードが解禁されたのは90年代に入ってからのことである。

立花隆『アメリカ性革命報告』197910月:「諸君!」19782月~11

上前淳一郎『世界の性革命紀行』19802月:「週刊現代」19791月~10

田原総一朗『セックス・ウォーズ 飽食時代の性』198411月:「週刊文春」19843月~8

 上前淳一郎といえば、初期は多彩なテーマをあつかうノンフィクション作家であった。本書『世界の性革命紀行』(1980)もその一つ。

「性革命を通りすぎた国―デンマーク」では、コペンハーゲンの市庁舎前にあるホルンを吹くバイキングの像にまつわるジョークから始まる。「あの像のを処女が通るとホルンが鳴る、といういい伝えがあるんです。〔…〕でもこの何十年か、ホルンを聞いたひとはいません」。1971年から義務化された性教育、というよりは避妊教育についての報告。

 「性革命の渦中にある国―西ドイツ」では、1975年に解禁されたポルノとセックスショップについての報告。「性革命いまだ成らずーフランス」では、「クイッド」という権威ある年鑑に載っているパリの娼婦地図から売春に関する報告。

 「性革命の劣等生―イタリア」では、ポンペイ遺跡の大胆な“性画”とその後のカトリックの影響を報告。ほかに「性革命のパイオニアたちーアメリカ」「性的冒険家の憂鬱―イギリス」という7つの国のセックス事情がソフトな語り口でレポートされている

 

 それに比して立花隆『アメリカ性革命報告』(1979)は強烈である。アメリカの性革命は人類史がいまだに体験したことのない領域に達していると、「人が千人いれば性的傾向は千ありうる」とか「ワギナ指向かクリトリス指向か」「ホモの世界の驚くべき広がり」とかの見出しが躍る。ほとんどが氾濫する男性雑誌を情報源にしていることが、ノンフィクションとしては不満である。性革命の進行は「実は誰にもまだよくわかっていない社会・文化的大変動が現に進行しつつあるのだという大変な問題に気がつく」と結論づけているのだが。

 田原総一朗『セックス・ウォーズ 飽食時代の性』(1984)は、“性行動”について10代から76歳の老人まで約200人に面接取材し、20のケースを具体的に紹介したレポートである。「妻たちが、すさまじい勢いで被害者から加害者に変貌しつつある」とある興信所の所長が指摘したとある。「困惑し佇む男、とくに中高年。われらの自立こそが緊要事である」と結んでいる。

 今や立花隆は“知の巨人”と称される評論家として出版界に君臨し、田原総一朗はテレビ番組で権力者を挑発し言質を取るやり方で司会者ではなく支配者となり、そして上前淳一郎はというと週刊文春のコラム、ストレス解消に効く『読むクスリ』(19842002、全27)で読者を永年楽しませてきたが、この“ちょっといい話”取材で燃え尽きたのか、まったくメディアに登場しなくなった。

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