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2009.11.20

ノンフィクション100選★神戸新聞の100日|神戸新聞社

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1995_3

外壁が剥がれ、一部の鉄骨が見えていた。通用門から3階の社長室に入った時、「ビルがうめいている」ように荒川[神戸新聞社長]には思えた。室内のひどさは形容のしょうもない。

「ビルが崩れずに、立っているのが不思議なほど」だった。

隣の2号会議室を基地にし、すぐに出社している社員を集めた。兵庫南部の交通機関がすべて止まっている状態だけに、顔は揃っていなかった。役員もいれば、一般社員もいる。立ったままで荒川は指示を出した。

「どんなことがあっても休刊はしない。新聞発行に全力を上げる」

未曾有の災害を目の前にして、新聞社がやるべきことは、たった一つしかない。「新聞を出す」ことである。

地域の惨状をつぶさに伝えることも、救援を呼びかけることも、被災者に情報を提供することも、すべては新聞を出すことから始まる。

★神戸新聞の100日――阪神大震災、地域ジャーナリズムの戦い|神戸新聞社|プレジデント社|199511

『神戸新聞の100日』(1995)は阪神・淡路大震災に立ち向かった1300人の神戸新聞社員の姿をみずから描いたもの。20101月にテレビドラマとして放映される。

1995年、大震災で神戸新聞会館が全壊、紙面制作システムが壊滅(製版、印刷工程、発送部門は無傷)。「緊急事態発生時における新聞発行援助協定(94)」を結んでいた京都新聞の協力で無休刊で発行を続けた。

本書で社員たちの奮闘ぶりをあらためて知り敬意を表する。本社が崩壊しても、新聞は無休を守ったというのは偉業であろう。

とはいうものの題字に神戸新聞とあるが、紙面はまるで京都新聞を読んでいるのと同じで、しかも配達されず積み上げられた束は無残だった記憶がある。

大震災時がジャーナリズム神戸新聞のピークであったと思われる。その後経営危機がせまり、営業畑出身の社長のもと、大きく舵を切る。

さて、神戸新聞OBに『マングローブ――テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(2007)で講談社ノンフィクション賞受賞した西岡研介がいる。

その西岡研介『スキャンダルを追え!「噂の眞相」トップ屋稼業』(2001)は、東京高検検事長のクビを取り、首相を売春スキャンダルで窮地に追い込んだスクープなど「噂真」時代を描いたノンフィクションだが、神戸新聞時代の大震災、少年A事件のころの回顧もおもしろい。

同書によれば、神戸空港建設計画を疑問視した記事に対し、神戸市幹部から“神戸の悲願”を地元紙は批判するなと、社長など上層部にプレッシャーがかけられる。それでも効果がないと、市幹部は社会部幹部やデスククラスに現場を抑え込んでもらうよう攻勢をかけてきた、と。

「『なぁ、西岡よ、あいつらも(空港建設に)必死なんや。もちろん批判すべきところは批判すべきや。けど、少しはあいつらの立場もわかったってくれへんか……』。元神戸市役所担当のOB記者にこう諭されたのも一度や二度ではなかった」

賛否の分かれる問題を報じる場合、新聞は双方の意見を平等に載せ、読者の判断に委ねようとする。この「バランス感覚」に居心地の悪さを感じて、西岡記者は神戸新聞をやめ「噂真」へ転職するのである。そういえば「噂の真相」誌上で神戸空港反対の田中康夫が地元神戸新聞の記者を“それでもジャーナリストか”としきりに挑発していた。

 わたしの勤めていた某法人が、あることで事務上のミスをしたが、“約160万円の不正を働いた”と神戸新聞にスクープされたことがある。なんと朝刊1面トップである。仮に記事にするにしても、どう考えても地域版の1段15行程度のニュースである。

反響すさまじく顧客への対応に追われた。PR誌に協力してもらっている元論説委員やフォーラムを共催している新聞社事業部門は何の役にもたたなかった。社会部長にじかに抗議したら“訂正はできないが顧客を意識した記事を再度載せるから”という。しかしそれは「余波の大きさに揺れている。顧客へ釈明行脚」という騒ぎに輪をかける記事であった。このためホームページに「神戸新聞の報道被害にあった。訂正記事を載せるよう抗議中である」と書いた。

 数日後、わが法人の親会社の幹部から、ホームページの抗議文を削除してほしいと社会部長が言っている、とやんわり圧力をかける電話があった。いまその幹部も社会部長も、それぞれ出世し、取締役になっている。

 神戸新聞は、全国紙と同じテーマの社説でつっぱるなど、紙面はローカルに徹することはせず、プライドの高さを誇っているが、それが裏目にでて、シェアを落としているのではないか。またWeb版でも商業主義と共同通信依存が顕著で、毎日新聞のWeb兵庫版等のきめの細かさにいちじるしく劣る。

そして、いまや商業ビルなどの不動産業が経営の主力であり、阪神競馬場の神戸新聞杯であったり、地元自治体に食い込んで指定管理者という下請け事業に進出したり、“地方紙営業の雄”である。

『神戸新聞の100日』をはじめ、神戸新聞社の阪神・淡路大震災に関する書籍は、子会社の神戸新聞総合出版センターを含め30点を超える。なお阪神・淡路大震災関係書籍は、神戸市立中央図書館によれば、2,222点(1999年末現在)がある。本書はその1冊である。

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