堀江敏幸◆正弦曲線
ただひとつ頭を悩ませてきたのは、男性用パジャマの上着についているポケットが、なんのためにあるのかということだった。〔…〕 女性用のパジャマにはポケットがないので、もしや男性にのみ必要な用途があるのではと勘ぐる者もいるだろう。実際、あれはエイズ防止にも役立つものを入れるところだと主張してやまない男に会ったこともある。〔…〕 最近ではカード式ラジオやMP3形式のプレーヤーをしのばせる者も出てきたそうだが、現実になにかをポケットに入れたまま横になると、どんなに軽くても心臓のすぐうえに異物があるようで、気持ちのよいものではない。携帯電話もまた然り。 夢の記録でもとるつもりならメモは枕もとに置くべきだろうし、薬を入れるなら水といっしょにこれもよくわかるところに揃えておいたほうが安全だ。 ――「昼のパジャマ」 |
◆正弦曲線|堀江敏幸|中央公論新社|ISBN:9784120040375|2009年09月
★★★
《キャッチ・コピー》
なにをやっても一定の振幅で収まってしまうのをふがいなく思わず、むしろその窮屈さに可能性を見いだし、夢想をゆだねてみること。正弦曲線とは、つまり、優雅な袋小路なのだ。言葉と暮らしをめぐる省察の連鎖。
《memo》
エッセイの名品。秋の夜のまだまだ深みゆくらしく――長谷川櫂
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