片岡義男◆ピーナツ・バターで始める朝
壮年「引きずったら叱られましたよね、子供の頃」 僕「日常のなかによくある、ふとしたいろんな場面で、引きずるな、と大人たちに叱られた記憶は、確かにあります」 妙齢「お布団を引きずると叱られましたね」〔…〕 布団や味噌汁のお碗だけではなく、引きずること全般が、日本の人たちにとってはマイナスに評価されて当然のものだった、という仮説は無理なく成立する。〔…〕 過去を引きずっているとか、失敗をいつまでも引きずる、という生きかたへの評価も、同情によって中和される余地はあるにしても、かなりのところまで低いはずだ。〔…〕 いろんな引きずりをこうして観察していくと、どれにも共通する要素があることに、やがて気づく。所定の位置まで持ち上げられたのち、そこにそのまま維持されるべきものが、位置を下げに下げて地面と接している状態だ。 定められた位置まで自分で持ち上げてそこに支えていなければならないのに、支えているというごく小さな意志を放棄して、支えることを地面にまかせている状態。大まかにひと括りにすると、引きずるとはこういうことであるようだ。 ――「引きずる人は叱られた」 |
◆ピーナツ・バターで始める朝|片岡義男|東京書籍|ISBN:9784487804160|2009年08月
★★★
《キャッチ・コピー》
散歩をする。いろいろ考える。おなかがすく。おいしいものを食べる。本屋にいく。文房具を買う。公園の階段には、いつも太った猫がいる。日常と旅をテーマとした、おなかにも頭にもおいしいエッセイ集。
《memo》
片岡義男はタイトルをつけるのが、なぜこんなにうまいのだろう。旅と小説はどのように関係し合うのか/アイスクリームには謎がある/商店街が終わって三叉路になるところ/手帳が溜息をつく/母の三原則/読みそこなったいくつかの物語/本が僕に向かって旅をする……。
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